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がんの痛みを和らげる|放射線治療の力と疼痛緩和

2024.03.04
最新更新日 2024.04.02

がんと診断されると、患者とその家族にとってはさまざまな不安と共に「痛み」が不可避の一部として立ちはだかります。
今、このサイトをご覧になっておられる方の中にも、がんの痛みに苦しんでいたり、これから痛みが出てくるのではと不安になっておられる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ここで伝えたいのは、希望があり、痛みを軽減する方法が存在し、中でも放射線治療が重要な役割を果たすことです。

この記事では、がんの痛みに焦点を当てつつ、特に放射線治療がその疼痛緩和にどのように貢献し、がん患者の生活の質を向上させるかについて詳しく探求します。

がんの痛みの理解

がんの痛みは、患者ごとに異なる体験です。がんの痛みについて知ることは、その痛みを和らげる治療に結びつけるために重要なことです。まず、がんの痛みについて理解を深めることから始めましょう。

がん患者が抱える「全人的な苦痛」

がんによる苦痛は、身体的なものに限ったことではありません。がんと宣告されたときの不安や思い通りの治療効果が出なかったときの失望感など、心がつらく、胸が痛いと感じてしまうこともあるでしょう。また、今後の人生設計などが変わってしまい、家族に対する思いや社会的な影響など、さまざまな辛さや不安でいっぱいになることもあると思います。どうして自分だけがと、現実を受け入れられない苦痛も経験するかもしれません。こうした心のつらさや身体的な苦痛を含め、痛みには四つの側面があるとされています。

身体的な苦痛
がん患者が体験する、からだの痛みをさします。がんそのものによる痛みのほか、がんの治療に伴う痛みなども含まれます。
精神的な苦痛
がんの診断や治療に対して、気持ちが落ち込んでしまったり、不安を感じてしまったりといった精神的な苦痛をさします。恐れやいらだち、孤独感として現れることもあります。
社会的な苦痛
がんによる社会的な関係の変化や制約によって引き起こされる苦痛です。仕事上の問題、経済的な問題、家庭内の問題、相続の問題などが含まれます。
スピリチュアル・ペイン
人生の意味や価値観の変化、罪の意識や死に対する恐怖感などからくる苦痛をさします。

これら四つの側面の苦痛は、相互に影響し合っています。ひとつの痛みがさまざまな痛みを引き起こします。このような考え方を、「全人的な苦痛」と呼びます。この考え方を理解することは、痛みをケアする医療者側にとって重要ですが、患者やその家族にとっても、痛みを克服するための一助になることでしょう。

がんに伴う一般的な痛みの種類:主に身体的苦痛について

原因による分類

  1. がん自体による痛み
  2. がんの診断(検査)や治療に伴う痛み
  3. がんそのものとは直接関連のない痛み(ほかの疾患による痛みなど)

神経生理学的分類

  1. 侵害受容痛:からだの組織や臓器のダメージが末梢神経の侵害受容器を刺激することでおこる痛みです。体性痛と内臓痛があります。
    A)体性痛:皮膚、筋肉、骨のダメージによる痛み。痛みの場所もはっきりしており、鋭い痛みのことが多いです。
    B)内臓痛:内臓のダメージによる痛み。痛みの局部がわかりづらく、腹部の臓器が原因でも背中や肩などに痛みを感じることもあります。鈍痛が多いのが特徴です。
  2. 神経障害痛:末梢神経や脊髄神経が直接ダメージを受けることによる痛み。しばしば刺すような痛み、燃えるような痛み、しびれ、電撃痛といった症状で、薬が効きにくく、難治性になることもしばしばあります。
  3. 心因痛:精神心理的要素が関与する痛み。不安があることで増強する痛みや、普段なら気にならない程度の変化でも痛みと感じたりすることもあります。

これらの痛みの種類は、がんの種類や進行度、治療方法によって異なる場合があります。また、痛みのメカニズムは複雑で個人差があります。しかし、これらの原因を理解することで、効果的に痛みを和らげるための方法を選択する手助けとなります。

がんの痛みの管理方法

がんの痛みの伝え方

がんの痛みを和らげる出発点は、患者が医療者に痛みを伝えることです。痛みは、患者自身の体験であり、痛みの感じ方はひとりひとり異なります。痛みを医療者にうまく伝えることにより、正しく評価され、より早く、より効果的な治療に結びつきます。

痛みは主観的な体験ですので、医療者は患者の訴える痛みをそのまま受け入れるよう、訓練されています。ですから、「この痛みは自分にしかわからず、他人には理解してもらえない」などと考える必要はありません。また、がんの痛みは我慢する必要のない痛みです。以下の点に注目しながら、ためらわずに医療者に伝えましょう。それぞれの項目について、メモを取っておくのもいい方法かもしれません。

  1. どこが痛いのか
    ・一か所? 複数? どこが痛いのか、正確にわからない?
    ・指で指し示せるような狭い範囲? 手のひらで示す範囲? からだ全体?
  2. どのように痛いのか
    ・擬音語であらわすと?
    ズキンズキン、キリキリ、ヒリヒリ、ガンガン、ビリビリ、ジンジン、ズーンなど
    ・ほかの表現では?
    さすような、しびれるような、やけるような、締め付けるような など
  3. どのくらい痛いのか
    ・痛みのない状態を0、耐えきれない痛みを10とした場合、どの程度?
    ・痛みで夜、目が覚める?(眠れない?) じっとしているのもつらい痛み?
  4. 痛みはいつから、どのくらい続くのか
    (例)昨日の朝、起きた時から、一日中痛い
    (例)抗がん剤を使った翌日から痛い。突然痛み出し、10分程度でおさまる
  5. どんな場合に痛いのか
    食事をすると痛い、咳やくしゃみで痛む、立ち上がろうとすると痛みが強くなる など
  6. 痛みが和らぐ方法はあるか
    痛み止めが効いている間は和らぐ、温めると楽になる、排便で痛みが止まった など
  7. 痛みに付随して生活上困っていることはあるか
    ねむれない、食欲がない、外出がおっくうになった、気分が落ち込む など

がんの痛みの治療

痛みの治療は、①薬物療法と②その他の治療法の二つに分けられます。
放射線治療は②その他の治療法に分類されます。放射線治療については後ほど、詳しくお伝えします。それ以外に、心理社会的ケアも重要です。心理的、社会的、精神的な面での心の負担などからくるつらさは身体的な痛みにも影響を与え、また、身体的な痛みは不安や恐怖などを引き起こし心に大きな負担を与えてしまいます。心のケアを大切ながん治療の一環として、臨床心理士、心療内科医、精神腫瘍医、チャプレン(病院にいる宗教家)などがケアを行っていきます。さらに、患者さんご自身で痛みを和らげたり、予防したりするセルフケアの方法がいくつかあります。セルフケアを行う際は必ず、実施しても問題ないか医療従事者に事前に確認するようにしましょう。

病院によっては、がんの痛みを専門的にあつかう医師やチームが存在します。緩和ケア科、緩和ケアチーム、ペインクリニックなどです。緩和ケアは、がんの終末期にだけ頼るのではなく、がんと診断されたときから重要な役割を果たします。痛みがあるとき、痛みに対する不安があるときにこのような専門チームに相談することは患者の生活の質を向上させるために大変重要です。

薬物療法

薬物療法は多くの痛みのあるがん患者にとって有効な方法です。「痛み止め」の薬には多くの種類があり、ひとりひとりの症状に応じて、効果を確認しながら処方されます。処方されたとおりに使用しないと評価が正確でなくなり、効果的に痛みを和らげることができなかったり、予期していなかったような副作用が出ることもあるので、自分の判断で量を増やしたり、使用をやめたりせず、正しく使用することが大切です。

薬物療法の基本は「飲み薬」です。患者さんご自身がほかの人の手を借りずに治療を進めていくことができ、注射薬や点滴のように何度も通院する必要もないからです。吐き気があったり、呑み込みが難しいなどの症状があるときは坐薬や注射薬、点滴などを使うこともあります。

決められた時間通りに服用することが重要です。薬によって、効果が現れるまでの時間やどれくらいの時間効き続けるのかなどが異なります。正しい時間に飲むことで効果を正確に評価し、適切な量の薬を服用することができます。また、時には急に強い痛みが一時的に出てきたり、まだ次の投薬の時間ではないのに痛みが我慢できなくなってきたしすることがあるかもしれません。このような場合には、臨時で追加するお薬(レスキュー・ドーズ)を使用します。

医療用麻薬について

がんの痛みを和らげる薬として、医療用麻薬がよく用いられます。医療用とはいえ、「麻薬」という言葉にマイナスなイメージを持ち、使用することに大きな抵抗感を持ってしまう患者もいるかもしれません。「中毒になり、やめられなくなる」「寿命を縮めてしまう」「麻薬を使うなんて、もう末期だということか」などと考えてしまうかもしれませんが、これは大きな誤解です。患者さんの痛みの程度と副作用の状況を確認しながら医師が適正な種類の麻薬を適正な量で処方し、患者が正しく服用している限り、依存症や中毒になってしまうようなことはありません。痛みが和らげば、麻薬の量を減らしたり中止することもできます。がんの痛みはがんが早期であっても現れることがあるので、医療用麻薬は現在ではがんの進行度にかかわらず使用しています。

医療用麻薬にも副作用の可能性はあります。しかし、これは麻薬特有のものではなく、ほかの薬にもある副作用の可能性と同じものです。便秘や吐き気、眠たくなりやすいなどの副作用が知られているので、これらの症状を和らげる薬もいっしょに使用することが多いです。副作用を出さないように工夫することで、麻薬による痛みを和らげる効果を最大限にすることが可能になるからです。

痛みを和らげるためのセルフケア

患者さんご自身で痛みを和らげたり、予防したりするセルフケアの方法がいくつかあります。セルフケアを行う際は必ず、実施しても問題ないか医療従事者に事前に確認するようにしましょう。

温める
カイロや湯たんぽ、毛布などで痛みのある部分を温めると、神経が痛みに対してやや鈍感になり痛みが柔らぐことがあります。ただし、炎症がある部分や傷のある所は逆効果になることがあります。また、低温やけどの危険性がありますので知覚が鈍くなっているところは避けましょう。
冷やす
氷枕や保冷材で患部を冷やすことで痛みが和らぐことがあります。腫れているところ、炎症が強いところには効果的ですが、傷口などは避けた方がよいでしょう。
姿勢や動作の工夫
痛みが起きにくい楽な姿勢をさがしてみましょう。腹痛がある場合は衣服を緩め、膝を曲げて横になってうずくまるような姿勢をとるで、お腹の緊張が取れて楽になることがあります。背中や腰に痛みがある場合は、体をねじるような動きや急に立ち上がるなどは避けましょう。腰痛には、「腰に枕を当てる」「膝の下にクッションを入れて脚を立てる」などが効果的なことがあります。

がんの痛みに対する放射線治療の役割

放射線治療は、高エネルギーの放射線をがん細胞に照射することにより細胞内のDNAを破壊し、抗がん作用を発揮する治療法です。
腫瘍を根治することを目指した「根治的放射線治療」と、痛みなどの症状を和らげることを目的とした「緩和的放射線治療」とがあり、痛みに対する放射線治療は後者の「緩和的放射線治療」です。

薬物療法とは異なり、痛みの原因となっているがん細胞を直接攻撃することによって痛みを和らげることができます。
骨転移の痛みに対しては、腫瘍細胞のみならず、がん細胞の影響下で痛みの原因物質を放出してしまっている、骨の代謝をつかさどる正常な細胞の増殖を抑制することで症状を和らげます。

一方で放射線治療は、照射中の数分から数十分は固いベッドの上であおむけの姿勢で動かず安静にする必要があり、痛みのためにそのような姿勢が困難な患者に対しては薬物療法で疼痛緩和を図りながら照射する必要があります。
また、照射を始めてから効果が出るまでに時間がかかることが多いので、その間は薬物療法を併用することが有効です。

皮膚や口腔・食道などの粘膜に広範囲に高い線量が照射されると、放射線治療により皮膚炎や粘膜炎をきたし、それが痛みの原因となる場合もあるので注意が必要です。
放射線治療は、個別の症例に合わせて計画され、実施されることでがん患者の生活の質を向上させ、疼痛緩和に寄与する重要な選択肢といえます。

骨転移に対する放射線治療

骨の代謝(リモデリング)

骨は常に古い骨を壊して、その場で新しい骨を作るということを繰り返しています。この骨の新陳代謝を「骨の代謝(リモデリング)」と言います。

骨のリモデリングには、「破骨(はこつ)細胞」と「骨芽(こつが)細胞」という2つの細胞が働きます。まず、破骨細胞が古くなった骨を溶かします(骨吸収)。次に骨芽細胞が、骨の溶かされた所から出てくるカルシウムやリンなどの骨の成分、細胞の増殖を促す化学物質(増殖因子)を利用して新しい骨を形成します(骨形成)。破骨細胞と骨芽細胞のバランスによって、骨は正常な強度が保たれます。

骨転移の成立

骨はカルシウムやリン、骨髄中の脂肪など、がん細胞が増殖するのに必要な栄養素が豊富であり、また、血流も多いのでがん細胞が転移するのに格好の臓器です。現に、ほとんどの臓器のがんは骨転移をきたします。特に、乳がん、前立腺がん、肺がんは骨転移率が高く、胃がんや大腸がんから骨転移をきたす患者数も決して少なくはありません。

しかし、骨の表面は硬く、がん細胞は自らこれを破壊することはできません。
そこで、がん細胞は破骨細胞を利用します。骨のリモデリングのバランスを崩すのです。血流を介して骨の近くまで来たがん細胞は破骨細胞の活性化を促し、骨芽細胞の増殖を抑制します。破骨細胞が活発になった結果、骨は溶け出し、そこにがん細胞が入り込んで骨転移が成立します。溶けた骨から放出される増殖因子は、骨芽細胞よりもがん細胞のほうに多く取り込まれ、さらにがん細胞が増殖しやすくなり、がん細胞と破骨細胞、骨芽細胞との間に悪循環ができてしまうのです。

骨転移の痛みのメカニズム

がん細胞により破骨細胞が増殖すると、破骨細胞は酸を放出するようになります。この酸が、骨のまわりにある末梢神経の酸感受性受容体を刺激し、脳に伝わって痛みが生じることがわかってきました。
また、骨が溶けたところから放出される増殖因子は神経の酸感受性受容体を増やす働きがあり、痛みを増加させる原因となります。
破骨細胞だけではなく、がん細胞やがんの周りに発生する炎症細胞も酸を放出することが知られています。
骨転移の痛みに対する治療は、がん細胞を縮小させるだけではなく、破骨細胞の増殖を抑えることも有効であることがわかります。

骨転移に対する放射線治療

骨転移病巣に照射された放射線は、がん細胞を縮小させるのみならず、破骨細胞にも働いて細胞を減少させることができます。これにより酸の放出が減少し、痛みが和らぐと考えられます。

放射線治療により破骨細胞が減少すると、相対的に骨芽細胞が多くなり、骨にはカルシウムが沈着して硬くなります。がん細胞の増殖する場所が減りますし、骨が強くなった分、骨折を予防するかもしれません。
脊椎への転移は腫瘍が脊髄まで達すると神経麻痺をきたし、手足が動かなくなったりする危険性があります。脊椎転移に対する放射線治療はこれらの脊髄神経麻痺の改善や予防にも有益です。麻痺は、症状が出始めてから2,3日経ってしまうと治療しても改善する可能性が激減することが知られています。少しでも麻痺症状が出たと感じたらすぐに医療機関を受診し、緊急的に治療を開始する必要があります。
このように骨転移に対する放射線治療は転移による痛みを和らげるのに有益です。放射線治療により約70%の患者で痛みが和らいだり、痛み止めの投薬量を減らせたりすることが知られています。

まとめ

このコラムでは、がん患者とその家族向けに、がんの痛みとその対策、特に放射線治療を用いた疼痛緩和について詳しく探求しました。
最後に、がん患者とその家族へのメッセージとして、希望を持ち続けることの大切さを強調したいと思います。がんという試練に立ち向かい、痛みを和らげ、生活の質を向上させる方法があります。専門家のサポートを受けながら、共に助け合い、明るい未来に向かって前進しましょう。がんと共に歩む中にあっても、希望と支えを見つけていきましょう。

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  • 高橋 正嗣
  • 彩都友紘会病院 医局長、放射線科部長

専門分野:放射線治療、高精度放射線治療全般
専門医資格:放射線科専門医、日本放射線腫瘍学会認定医、日本医学放射線学会研修指導者

〒567-0085 大阪府茨木市彩都あさぎ7丁目2番18号

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