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がん治療における自由診療|知っておくべきことと選択のポイント

2024.03.04
最新更新日 2024.04.02

がんと診断されることは、患者とその家族にとって非常に困難な瞬間をもたらします。その一方で、現代医療は進化し、患者にはさまざまな治療法の選択肢が提供されています。本記事では、がん治療において一つの選択肢として注目される「自由診療」に焦点を当て、そのメリットやデメリット、そして患者がより良い治療を選ぶために知っておくべき情報について探求していきます。がん治療における未来を明るくするために、患者と医療の両方が持つ可能性と選択肢を探ってまいりましょう。

※このコラムの内容はあくまで一般論です。当院および関西放射線治療センターが自由診療を推奨しているわけではありません。

はじめに

がんと診断されることとその治療の現実

がんと診断されることは、患者とその家族にとって衝撃的で心を揺さぶられる瞬間です。医師からの告知は、不安や恐怖、また、未知の未来への不安を引き起こすことがあります。がんは一般的に、患者の生活や心理的な側面に大きな影響を与える病気です。そんな中、治療の選択肢を検討することを迫られることになります。

がん治療の現実は、患者にとって肉体的な試練だけでなく、経済的な問題や社会的な影響も伴います。公的な健康保険が提供する治療についても限られた条件が存在し、これが治療の選択に影響を与えることがあります。患者は自身の状況や価値観を考慮し、最良の治療選択を見つけるために情報を求め、医療スタッフと密に連携することが重要です。

自由診療の概要とその役割

がん治療において、公的な健康保険による診療だけでなく、自由診療も注目されています。自由診療は、公的な保険が提供する範疇を超える医療サービスであり、時には高度な治療法を提供しうる選択肢で、患者に個別化された治療法を提供する役割があります。

自由診療のメリットとしては、最新の治療法や治療技術の選択が可能になることや、公的な保険では提供が難しい特殊な治療や薬物の選択の可能性があることなどが挙げられます。これにより、患者はより迅速で効果的な治療を受けることができます。しかし、自由診療には注意が必要であり、そのデメリットも考慮することが重要です。

自由診療のデメリットの一つは、科学的根拠が不十分な治療法が選択される可能性があることです。一部の自由診療はまだ研究途上であり、確立された科学的な根拠が不足している場合があります。このため、患者が未検証の治療法を選ぶ際には、その効果やリスクについて慎重に考慮する必要があります。

さらに、自由診療においては医師や治療機関によって治療の基準や手法が異なる場合があります。これにより、患者が効果的な治療を選ぶのが難しくなり、結果として治療の不確実性が生じることも考えられます。

患者が自由診療を選択する際には、医師とのコミュニケーションを重視し、治療法の科学的な根拠やリスクを十分に理解することが重要です。バランスの取れた医療選択により、患者が最善の結果を得ることが望まれます。

がん治療の基本知識

一般的ながん治療法の紹介

がん治療は、患者の病状やがんの進行度によってさまざまな治療法が選択されます。主ながん治療法には手術、放射線療法、化学療法などがあります。以下に、これらの一般的ながん治療法について紹介します。

手術

手術は、がんの局所的なコントロールや腫瘍の摘出を目的とした治療法です。がん組織や周辺組織の一部または全部を取り除くことで、患者の治療と回復を促進します。手術は早期のがんや手術が可能な部位のがんに対して広く行われています。

放射線療法

放射線療法は、高エネルギーの放射線をがん細胞に照射することで、細胞の成長を妨げたり破壊したりする治療法です。がん組織に焦点を当てつつ、周囲の正常な組織を最小限に保護することが目標です。

化学療法

化学療法は、がん細胞を破壊するための薬物を使用する治療法です。これらの薬物は全身に効果を及ぼし、がんが広がっている可能性のある部位にも届きます。一般的には点滴や経口投与で行われます。化学療法は主にがんの進行や転移を抑制するために使用され、手術や放射線療法と併用されることがあります。

これらのがん治療法は個別に使用される場合もありますが、最良の結果を得るために複数の治療法を組み合わせることも考えられます。治療計画は患者の病状や健康状態に基づいて個別に立てられ、医療チームとの密な連携が不可欠です。

日本の保険診療とがん治療

日本は皆保険制度をとっており、これにより公平かつ安全な医療が提供されています。以下に、日本の保険制度が提供するがん治療に関する基本的な情報を紹介します。

カバー範囲

公的な健康保険は、がん治療において様々な治療法をカバーしています。手術、放射線療法、化学療法など、一般的ながん治療法が含まれます。また、薬剤や検査、入院費用も必要に応じて保険によって支給されます。この制度により、患者には治療に必要な医療費の一部が公的に支給され、自己負担額を低減することができます。

負担割合

公的な健康保険においても、患者は一部自己負担が発生します。この自己負担割合は患者の年齢や年収、治療内容や医療機関によって異なりますが、公的な保険によって支えられることで、がん治療にかかる総費用が相対的に抑えられます。

公的な健康保険は多くのがん患者にとって貴重な支えとなり、治療の負担を軽減する一方で、医療制度の健全な運営を支えています。患者やその家族は、自身の加入保険に関する詳細を確認し、治療プランを検討する際に公的な保険の利点を十分に活かすことが大切です。

自由診療のメリットとデメリット

メリット

自由診療のメリットは以下の2点が挙げられます。

個別化された治療計画

自由診療では、患者一人ひとりの状態や特徴に基づいて、個別に適した治療計画が立てられます。公的な健康保険では標準的な治療法が提供される一方で、自由診療では患者の病態や希望に合わせてカスタマイズされた治療が可能です。これにより、治療の効果が大きくなり、患者の生活により適した形で治療が行われる場合があります。

最新の治療法や薬物へのアクセス

自由診療では、公的な健康保険で提供されている治療法や薬物の範囲を超えて、最新かつ先進的な治療法や薬物へのアクセスが可能です。がん治療は急速に進歩しており、その中でも最新の技術や薬剤を利用することで、より効果的な治療が期待されます。患者はこれらの進化した治療法にアクセスし、治療の選択肢を広げることができます。

デメリット

自由診療のデメリットは以下の4点が挙げられます。

費用の負担と経済的な課題

自由診療は一般に公的な健康保険よりも高額な費用がかかる傾向があります。治療や手術、特に最新かつ高度な技術を用いた場合、その費用は膨大となり、患者やその家族に経済的な負担を強いることがあります。これにより、経済的な課題が発生し、治療の選択肢が制限される可能性があります。

公平性や平等性の問題

自由診療が広く普及すると、経済的に余裕のある患者が高度で先進的な治療を選ぶ一方で、経済的に苦しい患者がこれらの治療にアクセスできなくなる可能性があります。これが広がれば、医療の公平性や平等性に影響を与え、経済格差による健康格差が拡大する可能性があります。

科学的根拠の問題と注意点

自由診療では公的な健康保険の対象外の治療法を選ぶことになりますが、これらの治療法は科学的な根拠や効果が不確かである場合があります。患者が未検証の治療法を選ぶ際には、その治療法のリスクや副作用、効果の不確かさに注意する必要があります。医師との十分なコミュニケーションが不可欠であり、患者は慎重に治療法を選択する必要があります。

混合診療の問題

厚生労働省は、同一医療機関で同じ疾患に対し一連の診療を受ける場合、保険診療と自由診療の両方を受けること(これを混合診療といいます)を原則禁止しています。たとえば、保険制度でカバーされる範囲の抗がん剤治療を受けながら自由診療で高精度放射線治療を受けることはできません。この場合、抗がん剤治療も保険でカバーされず全額が患者負担となります。

自由診療の種類と具体的な治療法

高度な放射線治療

がんに対する放射線治療は通常、保険診療が可能です。高額療養費制度も適用されます。ただし、高精度放射線治療(体幹部定位放射線治療:SBRTや、強度変調放射線治療:IMRT)では、一部保険診療外になる場合があります。

体幹部定位放射線治療
「頭蓋内腫瘍を含む頭頸部腫瘍及び脳動静脈奇形、肺癌、肝癌又は腎癌、限局性の前立腺癌又は膵癌、転移性脊椎腫瘍、5個以内のオリゴ転移及び脊髄動静脈奇形に対する治療」のみ保険が適応されます(2024年2月現在)。
強度変調放射線治療
「限局性の固形悪性腫瘍」について保険が適応されます(2024年2月現在)。照射部位以外に未治療または治療中のがん病変がある場合には保険診療外になります。

分子標的薬や免疫療法

比較的新しい薬である分子標的薬や免疫療法剤では、がんの種類によって、あるいは、進行度合いによって保険適応外の場合がります。これらのがん種の中には海外ではすでにその安全性や効果が証明されている薬剤もあり、こういった薬を自由診療で用いることは治療の選択肢を広げることになるかもしれません。

一方で、分子標的薬や免疫療法剤は、遺伝子検査やその他の検査等で効果が期待できる患者とそうでない患者をあらかじめ予測することができるようになってきています。検査結果により効果が期待できない場合には保険適応外となるわけですが、このような患者に自由診療で投薬するのは、費用がかかる上に効果がない可能性が大きく、あまりお勧めできません。

美容整形やサポートケアの提供

自由診療ではがん治療に留まらず、患者の総合的なケアにも焦点が当てられています。美容整形やサポートケアはその一環として、患者ががん治療を受ける中での生活の質を向上させるために提供されます(乳がん術後の乳房再建など、一部では保険が適応されるものもあります)。

自由診療を選ぶ際のポイント

病状や治療効果の評価

まず、ご自身の病状や、治療に対してどのような効果期待しているのかなどを明確に把握する必要があります。自由診療では公的な健康保険とは異なる治療法が提供されますので、その選択肢を理解し、病状に適した治療法を見極めることが重要です。医師との相談を通じて、最適な治療プランを策定することが求められます。

医師との十分なコミュニケーション

自由診療を受ける際には、医師との十分なコミュニケーションが不可欠です。治療の選択、リスク、予想される効果についての明確な説明を求め、自身の質問や懸念をしっかりと伝えることが大切です。患者と医師のコミュニケーションが円滑であれば、治療全体がよりスムーズに進行し、患者の納得感も高まります。

費用や保険のカバー範囲の確認

自由診療には通常、公的な健康保険と比べて高額な費用がかかります。患者は治療全体の費用を理解し、自身や家族の経済的な状況と照らし合わせる必要があります。同時に、いわゆる「混合診療」になっていないかどうかも確認しておくことが重要です。これにより、予期せぬ経済的な負担を避けることができます。

まとめ

自由診療の選択肢を理解する重要性

自由診療はがん患者にとって新たな治療法を提供する重要な選択肢となります。これにより、公的な健康保険では提供されない最新の治療法や、患者により合った個別化された治療プランを受けることが可能となります。一方で、科学的根拠のない、あるいは薄い治療法を選択したり、自己負担額が非常に高額になったり、医療の提供に公平性が失われたりするリスクが伴うことも忘れてはなりません。自身の病状や希望に合わせ、自由診療の提供する選択肢を理解することが重要です。

患者が持つ権利と責任

患者は自身の治療において主体的な役割を果たし、治療方針や選択した医療機関に対して権利と責任を有しています。患者は自身の病状について正確な情報を得る権利があり、治療に関する意思決定に積極的に参加することが期待されます。同時に、医師との協力や提供された情報を理解し、適切な判断を下す責任も求められます。

がん治療における未来への期待

がん治療の分野は急速に進歩しており、自由診療においてもこれらの進展は例外ではありません。分子標的薬や免疫療法などの最新の治療法ががん治療の主流となる中、患者は未来への期待を抱くことができます。患者と医師の連携、そして科学の進歩が共に進み、より効果的で個別化されたがん治療が実現することが期待されます。

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  • 高橋 正嗣
  • 彩都友紘会病院 医局長、放射線科部長

専門分野:放射線治療、高精度放射線治療全般
専門医資格:放射線科専門医、日本放射線腫瘍学会認定医、日本医学放射線学会研修指導者

〒567-0085 大阪府茨木市彩都あさぎ7丁目2番18号

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