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放射線治療

脳定位放射線照射|切らずに治す脳治療

2024.06.21
最新更新日 2024.06.21

脳定位放射線照射は、放射線治療の進歩の一環として生まれました。従来の放射線照射は、がん細胞のみならず健康な組織にもダメージを与える可能性がありました。しかし、脳定位放射線照射は、精密な画像診断技術とコンピュータによる治療計画技術によって、腫瘍や疾患の局所領域にのみ放射線を集中させることができます。これにより、周辺組織への損傷を最小限に抑えつつ、治療効果を最大化することが可能となりました。このコラムでは、脳定位放射線照射の歴史的背景から始まり、その種類と特徴、対象となる疾患や治療のメリット、デメリットなどについて取り上げます。

脳定位放射線照射の歴史的背景と意義

  • 脳定位放射線照射とは、誤差1mm以下の高い精度で、病変の形状に一致させて放射線を集中して照射する治療方法です。細いビームの放射線を3次元的に色々な方向から照射することにより、周囲の正常組織に対する被ばくを極力抑えつつ病変には高線量の放射線を投与することができます。これにより、正常脳組織への障害を押さえながら病変そのものを充分に治療することが可能になりました。
  • この治療法の先駆けとなったのがガンマナイフです。まるで手術のメスで腫瘍だけを切り取るように、病変に限局して放射線の影響を及ぼすことからこのように命名されました。

脳定位放射線照射の種類

ガンマナイフ

  • ガンマナイフは、スウェーデンの脳外科医レクセル教授によって開発されました。1960年代後半から臨床応用され始めています。

X線を用いた脳定位放射線治療

  • ガンマナイフは放射性物質であるコバルト60から出るガンマ線を用いる治療法ですが、その後、高エネルギーのX線を出すことのできるリニアックという放射線治療装置が開発されると、X線を用いた脳定位放射線照射法も開発されていきました。

IMRTへの発展

  • さらに、X線を用いた脳定位放射線治療では、強度変調放射線治療(IMRT)の技術を応用する照射法にも発展しています。

ガンマナイフとX線を用いた脳定位放射線照射

ガンマナイフ

ガンマナイフ装置の中に、約200個の小さな部屋が半球状に配列されており、その一つ一つにガンマ線を出すコバルト線源(60Co)が入っています。小部屋には小さな穴が半球の中心に集中するように開いており、そこからガンマ線が出てきます。それぞれは小さなエネルギーのガンマ線も集中してきた一点では大きなエネルギーになります。その中心点に患者の患部を持っていき、小さなターゲットに集中して照射します。

装置の寝台に仰向けで寝転んでいると、あらかじめ設定した腫瘍の座標が半球の中心に来るよう、寝台が自動的に平行移動していき、照射が始まる仕組みです。

照射中に頭が少しでも動いてしまうと座標がずれてしまうので、照射の前に頭部を寝台に固定する固定具(フレーム)を装着しなくてはなりません。フレームの支柱をおでこ2点と後頭部2点の合計4点で小さなボルト(ねじ)を用いて固定します。ボルトを刺す部分には注射で局所麻酔を行います。ボルトの先端は頭蓋骨の表面に届くぐらいまで入ります。このフレームを治療装置に固定することで病巣を半球の中心に正確に置くことができます。

ボルトによるフレーム装着のメリットとしては、非常に精度の高い、正確な照射が可能になること、照射中に体が多少動いても制度に影響が出ないことなどが挙げられます。デメリットとしては、麻酔の注射やボルトを締めるときに痛みを伴うこと、麻酔薬の副作用やボルトによる出血、傷口からの感染などのリスクがあること、分割照射※が難しいことなどです。

  • ※分割照射:必要な放射線量を何回かに分けて照射する方法。正常細胞とがん細胞の、放射線によるダメージからの回復能力の差を利用し、正常組織の障害のリスクを低減させるために用いられる。ボルトによるフレームを装着したまま何日も過ごすわけにはいかないので、ガンマナイフでは分割照射が難しい。

最新のガンマナイフ装置では、ボルトを使用しないマスク型のフレームが使用可能となり、分割照射が容易になりました。

X線を用いた脳定位放射線治療

通常の放射線治療に用いられるライナック(LINAC)と呼ばれるX線を出す装置を用いた脳定位放射線照射法です。ライナックから出る細いX線ビームを、装置のガントリを扇形に回転させながら照射します。回転する扇形の中心に患部を合わせて持っていけばガンマナイフ同様、中心部にのみ高い放射線が照射される仕組みです。脳のみならず、肺や肝臓、前立腺など、体幹部の腫瘍にも応用できるのも大きな特徴です。

ガンマナイフと異なり、ボルトによる固定をすることはほとんどありません。また、脳定位放射線治療専用機ではありませんので、ガンマナイフと比較すると位置の制度は少しだけ劣ります。このため、ターゲットに1~2㎜程度余白をとって照射します。その分正常脳にも照射されるので、副作用を低減させるために分割照射をすることが多いです。

ガンマナイフが約200個の線源から一度にビームが出るのに対し、X線を用いた脳定位放射線治療法では、ひとつの線源から出るX線のビームを回転させながら照射するため、照射時間が長くなります。特に腫瘍の個数が多くなるとその差は大きくなります。

最近では、IMRTの技術を用いて、多発した脳転移に対してもひとつのターゲットとして腫瘍には高線量、正常脳には低線量が照射されるように治療計画することで、複数病変であっても短時間で照射ができるようになりました。

ガンマナイフとX線脳定位放射線治療のとの比較

  • 脳転移をはじめとする脳腫瘍に対する定位放射線照射では、ガンマナイフとX線を用いた脳定位放射線治療で治療成績に変わりがないとする多数の報告があります。
  • 小さい病変が多発しているような場合には、一度に短時間で照射できるガンマナイフが有利かもしれません。
  • 比較的大きな腫瘍や不整形をした病変にはX線を用いた脳定位放射線治療がよい場合があります。
  • すぐ近くに障害が出ては困る組織がある場合(視神経や聴神経、脳幹など)、分割照射をすることで障害のリスクを低減できるので、X線を用いた脳定位放射線治療が優位な場合があります。
ガンマナイフ X線を用いた脳定位放射線治療
施設数
専用の治療装置を用いるため、治療可能な施設が限られている(全国で約50施設) 通常の放射線治療装置を用いるので、比較的多くの施設で治療可能
線源と線質
約200個のコバルトから出るガンマ線 ライナックから出るX線
固定精度
高い精度(誤差1㎜未満) 綿密な精度管理が必要(誤差1~2㎜程度)
分割照射
ボルト固定の場合は困難 ボルトを使用しないので容易

ガンマナイフとX線脳定位放射線治療のとの比較

  • サイバーナイフは、X線を用いた定位放射線治療の専用機として開発されました。自動車工場などで用いられるロボットアームの先端にX線を発生させるリニアックを搭載した治療装置です。ロボットアームが体のまわりを自由に動き回ることができるので、さまざまな方向から腫瘍をピンポイントに照射できるのが特徴です。また、天井に設置された2台のカメラで照射中に画像を撮影し、体のずれを察知して補正しながら照射します。

脳定位放射線照射の対象となる疾患

転移性脳腫瘍

施設によっても異なりますが、脳定位放射線照射患者の60~80%が転移性脳腫瘍です。肺がん、乳がん、大腸がん、腎がんからの転移が多いです。

悪性脳腫瘍

悪性神経膠腫、悪性髄膜種などに用いられることがあります。

良性脳腫瘍

聴神経腫瘍、髄膜種、下垂体腺腫などの良性腫瘍にも用いられます。

腫瘍以外

脳動静脈奇形、三叉神経痛(ガンマナイフ)など。

脳定位放射線照射のメリットとデメリット

手術との比較でのメリットとデメリット

  • 脳定位放射線治療は病変部だけを切れ味よく治療できるのは手術と同様ですが、それに加えて、全身麻酔が不要で皮膚や頭蓋骨を切る必要がないなど体への負担が軽く、入院期間も短くて済みます。また、手術では届きにくいような深いところでも放射線であれば治療しやすいことが多いのもメリットと言えるでしょう。
  • 一方、治療の効果が出るのに時間がかかるのがデメリットになりえます。このため、大きい腫瘍の場合や早く症状を和らげる必要がある場合には手術が選択されることが多いです。術後に残存した病変に対して脳定位放射線照射が選択されることもあります。

脳転移に対する全脳照射との比較でのメリットとデメリット

  • 脳転移に対して放射線治療を行う場合、全脳照射か脳定位放射線照射かが選択されます。全脳照射は文字通り、脳全体をターゲットとした放射線治療です。
  • 脳定位放射線照射のメリットは、正常脳細胞に放射線がほとんど照射されないので、全脳照射の時に見られるような脳萎縮やそれによる認知機能障害などのリスクが少ないことが挙げられます。また、正常細胞が守られる分、腫瘍への放射線量を増やすことができるので腫瘍を縮小させる効果は全脳照射よりも高いです。
  • 一方、腫瘍のすぐ近傍の脳細胞には比較的高い線量が照射されるため、全脳照射ではあまり心配しなくてもよい脳壊死という副作用のリスクがあるのがデメリットです。また、全脳照射だと、画像ではとらえきれないような小さな腫瘍があっても治療されますが、脳定位放射線照射では治療されていないため、脳内の別のところに再発してくる率は全脳照射よりも脳定位放射線照射のほうが高くなります。ただし、再発した場合には再び脳定位放射線照射を選択することは可能です。

まとめ

結論として、脳定位放射線照射は、脳腫瘍などの疾患に対する効果的でからだへの負担が少ない治療方法として、ますます重要性を増しています。技術の進歩と共に、治療の精度と安全性は向上し、患者の生活の質を改善する可能性がますます高まっています。しかし、患者は治療のリスクと利点を十分に理解し、医師との信頼関係を築いた上で、最適な治療選択を行うことが重要です。脳腫瘍などの治療に関し、手術を提案された場合であっても、脳定位放射線照射の可能性について医師に相談してみるのがよいでしょう。

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  • 高橋 正嗣
  • 彩都友紘会病院 医局長、放射線科部長

専門分野:放射線治療、高精度放射線治療全般
専門医資格:放射線科専門医、日本放射線腫瘍学会認定医、日本医学放射線学会研修指導者

〒567-0085 大阪府茨木市彩都あさぎ7丁目2番18号

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